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お話と音楽

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コウサギとカノジョの二人旅 の巻き

カノジョは木の陰に隠れているコウサギに声をかけました。
「こっちへいらっしゃい。一緒にお魚を食べましょう。」
コウサギは」警戒して、隠れたまま、カノジョの様子を伺っています。
カノジョは持っていた魚を持ち上げて、もう一度呼びました。
「だいじょうぶ、心配しないで。私も一人だから。」
コウサギはおそるおそるカノジョに近づいてきましたが、カノジョが魚を差し出すと、パッと掴んで、夢中で食べ初めました。
「とてもお腹がすいていたのね。」
カノジョはしばらくコウサギが魚を食べる様子を見ていました。
コウサギは一匹まるごと食べ終わると、やっと落ち着いたようです。
「あなた一人なの?お母さんや兄弟はどこにいるの?」
カノジョが聞くと、コウサギは小さな震える声で答えました。
「あの、私一人ぼっちになってしまったのです。お父さんもお母さんもお兄ちゃんもみんな殺されてしまった。」
コウサギはこれだけ話すと、大きな声で泣きじゃくりました。
カノジョは
「泣きたいだけ、泣きなさい。もうひとりぼっちじゃないわ。今日から私と
いっしょよ。」と言って、コウサギを抱きしめました。
少し落ち着きを取り戻すと、コウサギが一部始終を話し始めました。
「私たちが、おうちを出てしばらく歩いていくと、突然バンバンバンバンと、銃の音がしたの。気がついたら、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも倒れていました。倒れたあたりに、真っ赤な血が流れているのが見えたわ。私は木の陰で、ふるえていたの。怖くて動けなかったわ。
そこへ『やったぜ、今日は朝からラッキーだぜ!!』
『オオーッ!!3匹も仕留めたのか、すげえなあ!!』
などと言いながら、5,6人の男たちがやってきて、お母さんたちをかついで行ってしまったのです。
私のことは、気がつかなかったようです。
私は目の前で今起こったことが、しばらく信じられなくて、じっと木にしがみついていました。そうしたら、あたりはだんだん暗くなって、やがて真っ暗闇になってしまったの。遠くでフクロウの声やオオオカミの遠吠えが聞こえてきて、とても怖かった。
ここにいては危険だわ。早く逃げなきゃと思ったの。それから夢中で森の中を走り回って、どこをどう走ったかわからないのだけど、気がついたら、この川のそばに来ていたのです。」
カノジョは目にいっぱい涙をためて、コウサギの話を聞いていました。
「なんてことなの、突然そんな災難に合うなんて。神様は残酷ね。私も幼いときに、お母さんを亡くして、たった一人で生きてきたのよ。これからはずっと一緒に旅をしていきましょう。もう一人ぼっちじゃないのよ。」

コウサギはやっと安心したような顔になり、ちょっと笑いました。
その夜は、川原に枯れ草をいっぱい持ってきて、ふかふかのベッドを作り、2匹で寄り添って寝ました。他の動物が襲ってこないように、たき火も焚きました。これはグレたちと共同生活をするようになってから身につけた知恵です。
その夜、コウサギはやっと安心して眠ることができました。

カノジョは時々うつらうつらしながら、空のお星様とお話して夜を明かしました。
「メイ、クロスケ、私たちを守ってね。私は旅に出てきてよかったわ。これからどんな運命が待ち受けているかもしれないけど、がんばってみるわ。最後はあなたたちのところに行けるのですもの。何も怖いものなんてないわ。でもまだ呼んだりしないで、見守っていてよ。」

その夜の空はよく晴れて、満天の星空だったのです。

つづく

BGM 休息(歌曲集 冬の旅より) F.シューベルト

イラストの説明
コウサギとカノジョは満天の星空の下、干草のベットで休みました
コウサギとカノジョは満天の星空の下、干草のベットで休みました

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