縲€
music_noteそれぞれのお話に合わせてBGMを用意しています。よろしければダウンロードして、お話と音楽をお楽しみください

お話と音楽

このページは、1月に1回(毎月末)更新されています。はじめての方は、くろすけの巻きからごらんください。

<<前のお話 もくじ 次のお話>>

コロボックルの卒業試験  の巻き

真夜中の儀式が終わり、朝日が昇るころ、大なべのまわりに、コロボックルたちが集まりました。かまどに火が焚かれ、いよいよ魔法の薬を作る作業が、はじまります。
1番目の大なべは「どんなケガや病気も治る薬」です。この薬はコロボックルの村でも、とても重要な薬で、一年中絶やさないような量を作らなくてはなりません。白い服を着た、12人の選ばれたコロボックルが、じゅもんを唱えながら、なべの中に赤い実を入れていきました。
この12人のコロボックルたちは、かって病気や大けがをして生死の境をさまよった人たちで、そのとき煎じて飲んだ木の実で、奇跡的に命をとりとめた人たちなのです。

マスター「ああ、やっとコロボックルの魔法のなぞが解けてきたぞ。奇跡的に命が助かった、特別なコロボックルたちが作っていたんだ。だからそのときと同じような効果が出るわけなのか。」

12人のコロボックルたちは、奇跡的に助かったときのことを思い出しながら、全身全霊を込めて、赤い実をなべの中に入れていきました。

しばらくして、湯気が立ち、甘い香りがしてくると、今年この薬を飲んで、元気になったコロボックルたちも、じゅもんを唱えながら、作業に加わりました。こうして1日中かけて、炊き上げるのだそうです。

2番目の大なべは、青い服を着た12人のコロボックルが、紫色の木の実と、真っ白なキノコをなべに入れていきました。
「おだやかで、幸せな気持ちになれる薬」を作るグループです。
このグループの12人は、人生どん底の悲しみを経験した人たちでした。
生まれたばかりのわが子を、おおかみに襲われて、食べられてしまったコロボックルのお母さん、住んでいた家が火事になって、親も兄弟も失った子供のコロボックル、森に木を切りに行った夫が、熊に襲われて亡くなった、若い奥さんのコロボックル、みんな悲しみのどん底のときに、この薬を飲んで、今では随分おだやかな気持ちで暮らすことができるようになったのです。
このグループの12人も、それぞれ思いを込めて、紫色の実と白いキノコをなべに入れていきました。
そして、そのあとから、ペットのカエルに死なれた子供のコロボックルや、可愛がっていた小鳥に先立たれた、おばあさんおコロボックルなど、悲しみを抱えたコロボックルたちが、じゅもんを唱えながら実とキノコを入れていきました。
悲しみを抱えたコロボックルたちは、そうしてじゅもんを唱えているうちに、段々幸せな気持ちを取り戻してきたのです。

3番目の大なべは「子供用の知恵の薬」を作るグループです。
今年9年生になった子供たちが、もうすぐ卒業を迎えるのですが、この薬をきちんと作ることができたら、卒業が認められるのです。今年は15人のコロボックルが卒業予定です。
15人の子供たちは、学校の制服に身を包み、チョコレート味の木の実や、イチゴ味の花など、5種類の木の実や花をなべに入れていきました。

1人1人の子供たちは、全神経を集中させて、それぞれが9年間学校で学んだ、魔法の魔力が、体に宿るのを待っています。
そのとき、一心にじゅもんを唱えていた少女の頭上に、金色の光の輪が輝きました。
「我らに知恵を与えたまえ」少女が叫ぶと、背中から白い羽が生まれて、空に飛び立ったのです。

長老「まずは、マリーが合格だな。」
長老の目の前に降り立った少女に、長老は卒業の証の月桂樹の冠を被せました。

次は金髪で痩せッポッチの少年の番です。彼は美しいボーイソプラノで、「森の妖精」という歌を歌いながら、大なべに木の実を入れました。少年も全身全霊を込めて、歌いました。この世のものとは思えない不思議な歌声に感動して、グレたちは、震えるほどでした。
歌い終わった少年の頭上にも、金色の輪が輝いて、背中には羽が生えてきたのです。

長老「グレート、すばらしい歌だったよ。よくがんばった、おめでとう。」
長老はその少年の頭にも、月桂樹の冠を被せました。

こうして15人全員が無事「卒業の魔法の知恵の薬」作りに合格したのです。

カノジョの目には涙があふれていました。
「魔法の薬は、コロボックルたちの命の結晶だったのね。コロボックルたちの情熱を私たちは、分けてもらっていたんだわ。」

グレも泣いています。
「僕たちは、安易に魔法の薬を使ってはいけないんだ。こんな思いで作られていたとは。。。
知ることができて、本当によかった。」

グレたちは、魔法の薬の作業に参加したすべてのコロボックルと握手を交わしました。
子供たちには、「おめでとう、これからは大人の仲間入りだね。」と祝福をしました。
「みなさん、今日は本当にすばらしい光景を見せていただきました。僕たちは、このことを一生忘れません。これからも苦しいときには、この魔法の薬作りのことを思い出して、がんばります。今日はお礼の気持ちを込めて、ぼくたちの歌を聞いてください。」

グレたちはアカペラで、「アメイジング・グレース」を歌いました。
コロボックルたちは、いっしょに歌に併せて、踊ってくれました。

ありがとう、コロボックルのみなさん、さようなら、さようなら。。。

つづ く

BGM 小さい羊飼い(ドビュッシー)

イラストの説明
コロボックルの少女は卒業試験に合格して、空を飛べるようになりました
コロボックルの少女は卒業試験に合格して、空を飛べるようになりました

<<前のお話 もくじ 次のお話>>