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お話と音楽

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我が祖国の巻き

グレたちがこの島へ来てから、1週間が経ちました。

漂流していたネコは、だいぶ回復して、チャピーの採ってくる魚や貝も食べられるようになりました。少しずつ体力も回復してきたそのネコは、漂流してきたわけを話し始めました。
「私はチャールズという者です。私の祖国はキャッツアイという国です。ご存知でしょうか?」
グレ「ああ、知っています。ネコたちだけの国で、山や森の美しい国ですよね。時々『世界一美しいネコの国』という紹介で、TV放映されています。」
カノジョ「そんな国からどうして脱走してきたのですか?」

チャールズ「私たちの国はご存知のように、自然の豊かな国で、ネコたちは幸せに暮らしていました。ところがある日、武装した人間がやってきたのです。その人間たちは私たちの国を占領しました。年老いたネコや子ネコたちは射殺されました。そして若い雄ネコは奴隷としてくさりにつながれ、強制労働を強いられたのです。体が弱ってくると、その場で次々と殺害されていきました。若くてかわいい雌ネコだけが人間のペットとして引き取られていきました。しかし、その雌ネコたちの暮らしも地獄だったのです。
人間の家庭に引き取られた雌ネコたちは、部屋の中でもくさりにつながれ、家の外へは一歩も出ることは許されず、もちろん、友達や家族に会うこともできません。私の恋ネコのメアリーも、くさりにつながれて暮らしています。
このままでは、私の国は滅亡です。私も2度とメアリーに会うことはできません。
私自身も、このまま労働を続けていれば、いずれ殺されることはわかっていました。そこで、一か八か脱走を企てたのです。

私たちは地下にトンネルを掘って、有刺鉄線の張り巡らされた、高い塀の下から脱出することにしました。トンネル掘りは人間たちが寝静まった深夜に行われました。以前はそれほど親交のなかった、ネズミさんやモグラさんたちも協力してくれました。彼らは自由の身でしたので、音を立てずにトンネルを掘る機械なども差し入れてくれたのです。
深夜の作業は毎日続けられ、半年後にやっと、塀の外につながったのです。ある月明かりもない真っ暗闇の夜、脱出は行われました。私を先頭に、約10分の間隔をおいて、次々とネコたちが、トンネルを歩いてきました。私はなんなくトンネルを抜け、塀の外へ出ることができましたが、いくら待っても、あとからネコが出てくることは、ありませんでした。私たちの考えは甘かったのです。
人間たちはコンピューターを使って、監視していたのです。しばらくすると、銃声が聞こえました。計画が発覚したことを知った私は無我夢中で逃げました。暗闇の中を追っ手はすぐそばまで来ていました。断崖絶壁まで追い詰められた私は、絶体絶命、海に飛び込んだのです。」

ここまで一気に話すと、チャールズはじっと目を閉じました。それまでの記憶がまざまざとよみがえってきたのです。チャールズは頭を抱えて、泣き出しました。
「あとに続いた私の同僚たちは、おそらく皆殺されたでしょう。そして半年かけて掘ったあのトンネルも閉鎖されてしまったでしょう。
あの地獄と化してしまった祖国から脱出できたのは私だけかもしれない。人間が占領した国ですから、ネコの力では取り戻すことは不可能です。でも仲間を助け出したい。私たちネコ族は国を追われても、どんな山の奥地に入っても、生きていけます。命さえ、助け出すことができれば。」

4匹は驚きのあまり、しばらく言葉を失いました。
マスターがチャールズの手を握り締めました。
「おれたちはネコ族だ。今まで長い歴史の中で弾圧された時も、生き延びてきたのだ。今度だって必ず生き延びることができると、信じているぜ。おれたちもできるだけのことはさせてもらうぜ。」
みんな、チャールズのそばに駆け寄りました。
カノジョは目を潤ませながら、しかしきっぱりとした口調で言いました。
「もう、あなた一人じゃないわ。私たちにはネコだけでなく、フクロウさんや小人さんや、トカゲさんや、いろんな仲間がいるの。私たちが呼びかければ、きっとみんな協力してくれると思うわ。武力で弱い物いじめをするやつらは許してはいけないのよ。いっしょに戦いましょう。」

5匹のネコたちは、海に沈む真っ赤な夕日に祈りをこめて、合掌しました。


つづく

BGM 月光ソナタ (ベートーベン)

仲間を待つチャールズ

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