(この物語はのらねこたちが、旅をしながらさまざまな体験をする物語です。
前のお話もごらんになってください。)
前回、深い海の底にしずんでいったグレは、その後どうなったでしょう。
グレは甘い香りとやわらかな光の降りそそぐ、お花畑で目を覚ましました。
あたりいちめん、花のじゅうたんのように花が咲き乱れ、
そのあいだをぬうようにして、猫たちが行き来していました。
猫たちのせなかには、みんな羽がはえていました。
いっぴきの猫が、グレに近づいてきました。
「気がつきましたか、グレさん。よほど疲れていたようで、何日も眠りつづけていたのですよ。」
「どうして僕の名前を知っているのですか。それに、ここはどこですか。」
グレは不思議に思って尋ねました。
「ここは天国ですよ。僕はメイ、僕は天使になったので、地上の事は、なんでもわかるのですよ。
グレさんは、カノジョにも会ったのですね。カノジョは今でも僕の帰りをまっているなんて、悲しいことです。
カノジョには、これからの猫生、もっと幸せになってもらいたい。」
メイは、すこし悲しそうな顔をしましたが、涙はながしませんでした。
天国では泣いたり、怒ったりという感情は存在しないのです。どの猫もやさしい慈愛にみちた、ほほえみをうかべています。
食事もとりません。空腹感もないようです。暑さ、寒さもなく1年中花がさきみだれ、ここちよい季節なのです。
メイはとても若いハンサムな猫でした。若くして天に召されたメイは、それから歳をとらないのです。
「このメイさんがカノジョの恋猫だったのか。なんてすてきな若者なんだろう。カノジョが好きになるのも無理はないなあ。」
グレは、とても素直な気持ちでそう思いました。
「メイさん。僕はもう疲れもとれたし、このまま、遊んでばかりいては、もうしわけない。
僕にもなにか仕事をさせてください。」
グレは天国の一員になったのだと思いました。
「グレさん。君はなにかの手違いで天国にきてしまったのです。
本当は、まだ、しばらくは、地上で活躍しなくてはなりません。神様にお願いして地上に帰してもらう事にします。
帰る前に1つだけ、お願いがあります。グレさんの歌を天国の猫たちに聴かせてください。」
メイはどこからかギターを持ってきてグレに手渡しました。
どこからともなくたくさんの猫たちが、集まってきてグレのまわりをとりかこみました。
そのなかには、マリンブルーの楽団員もいました。
グレは猫たちのために心をこめて歌いました。グレの歌声は天国のおはなばたけに響き渡りました。
猫たちは、久しぶりに聴く、地上の歌声にいつになく感激して、涙する猫もいました。
「ありがとう。すばらしい歌だった。この歌はもっともっと、地上のたくさんの猫たちに聴かせなくてはいけないよ。
グレさんの歌で幸せになれる猫がたくさんいるはずです。また旅を続けてください。
それから、もしカノジョに会う事があったら、メイはカノジョの幸せを願っていた。と伝えてください。」
メイは、そう言うと、グレを天国の港に案内しました。
そこには、羽のはえた真っ白いヨットが待っていました。
グレがそのヨットに乗り込むと、猫たちは総出で見送ってくれました。
グレは不思議な出来事だったなあ。と思っているうちに、きゅうに眠気がおそってきて、深い眠りにはいっていきました。
つづく